辿るかけら
断片による里沼の再生(B4 上田春彦)
千葉県柏市と我孫子市にまたがる手賀沼は、生物多様性の観点から、また生活・生業といった文化的観点から「里沼」と呼ばれ、かつてその周辺地域では、多様な自然環境を保全しながらその恵を享受し、持続可能な生活が営まれていた。しかしながら、高度成長期における人口増加や都市化により、沼は汚濁し、植物は減少し、人々は沼から離れていった。このことが問題視されて以降、様々な取り組みによって汚染の状況は改善されてきているものの、時代の変化により、沼とともにあった生活・生業は失われ、人々の暮らしと沼の関係は稀薄なものになってしまった。そこで本計画では、沼とその周辺地域を大きな家と捉え、そこで暮らすための断片的居住空間を提案することにより、人と沼との関係回復を目指す。具体的には、既存の小屋を改修した水に親しむ広場、案山子を利用した服選びのできる服屋、葦でつくった自然の中のカフェ等、合計19 箇所を計画対象とした。これらの断片的居住空間は、生活の一部に沼の豊かさを取り入れるために、住居の諸要素を分解し、それらを沼各所の特徴的な場所と関連づけながら点在させたものであり、生活者がそれらを紡いでいくことでひとつの暮らしとなるようなものを意図した。設計に際しては、まず沼周辺を歩き、自然環境や文化、既にある人と沼との関係を表しているものを記録してまとめた。そして、それら諸要素の延長線上にあるものとして断片的居住空間を設計することにより、文化を継承しつつ自然と調和する建築となることを目指している。(JIA 第28回 長野県学生卒業設計コンクール 大学の部 奨励賞受賞/『近代建築6月号別冊 卒業制作2019』掲載)