TOWARD MULTI INTERPRETABLE ARCHITECTURE

住みこなされる建築をめざして(M2 上田春彦)

本研究は、使用者の連想や解釈の余地を多様に備えた建築を構想することにより、「住みこなされる建築」のあり方を探求するものである。第1章では、本研究の背景を示した。近年、多様な価値観が生まれ、各人の主体性や多様性に目が向けられている。一方、日常にある「もの」は、各人の様々な解釈を経て利用される。例えば、一辺50cmの立方体の物体をベンチとして利用する人もいれば、ローテーブルとして利用する人もいる。ここでは、これを使い「こなし」と捉え、ものと人との関係を探り、それを建築的スケールまで拡張して思考することで、多様に解釈され利用される建築を模索する。第2章では、先行事例を概観した。それらは、抽象的な形態によって多様な活動を誘発しようとしたもの、既存のものから具体的な要素を読み取ろうとしたもの、建築の物的要素によって多様性を表現したものである。これに対し、本プロジェクトでは、多様な活動を誘発する抽象的なオブジェクトの思考と、それらを含む具体的状況の把握、双方からアプローチし、かつそれを建築のデザインにつなげながら「住みこなし」を実現しようとする点で提案性を持つと考えている。第3章の「家具プロジェクト」では、住みこなされる家具を制作し、それを協力者に使ってもらった。ここでは、オブジェクトの設計プロセスを模索し、形を抽象化していく方向と要素を増やしていく方向でオブジェクトを制作した。また、実際に使用してもらうことにより、気のそそるものへの足掛かりを得ることができた。第4章の「観察プロジェクト」では、街中にある住みこなされているものを分析的に観察することによって、利用者の気をそそる要因やその解釈を探った。第5章の「場所プロジェクト」では、実際の敷地における住みこなされる家具を制作した。ここでは、場所とオブジェクトの関係を模索しながら、制作を行った。第6章の「住宅プロジェクト」では、小さな住みこなしを住宅的スケールまで拡大させた。ここでは、大きな質量の物体に様々な穴を開けるように設計を進めることにより、開口や、家具、居室の意味を曖昧にしていき、多様に解釈されうる建築を設計した。第7章では、総括を行った。適度なスケールで、抽象性を保ちつつ多くの意味を内包させ、かつバランスよく、気のそそる形態とすることで、使用者によって自由に住まわれる「住みこなされる建築」を構想することができると考えられる。(トウキョウ建築コレクション2021全国修士設計展ファイナリスト)