牧童が口ずさむ舎:人を繋ぐ牛舎型六次産業施設の提案(B4 横田勇樹)
北海道八雲町は、北海道酪農発祥の地として、明治時代から現在に至るまで乳牛を基軸とした一次産業が盛んな町である。しかしながら現在、既存酪農家は担い手問題に苦しんでおり、自らの放牧地を手放し、牛を閉じ切った牛舎内で飼育するようになっている。また、他県から町に移住する新規酪農従事者は効率重視の畜産を広めている。このような状況が続けば、人と牛の今までの関係は薄れ、牛の生活はより制限されていくものと考えられる。一方、2030年に完成が予定されている北海道新幹線新八雲駅構想では、駅周辺に牛を放牧することが計画されており、町の酪農にとってのターニングポイントになると考えられる。よって、本計画では、同新駅に生産・販売・加工の流れを持つ六次産業施設を併設し、酪農への関心、理解を深める場を提案する。また、新規従事者と旧従事者がお互いの知識を伝え合うことで、八雲町のこれからの酪農の在り方を再定義する場となるような計画とする。具体的には、来訪者を駅から町へ引き込むように施設を付加し、町内外の人々が牛と触れ合いながら見学・体験する施設配置とし、悠々自適に住みこなす乳牛をかすがいとして、従事者、観光者、町民それぞれの関係性を繋ぐものとする。また、設計過程においては、現地に赴き牧歌的な周辺環境の情景や牛の行動、スケールを観察し記録することで、生き物が持つ人間とは異なった性質や牛舎だけにしかない構造、空間を計画に落とし込んだ。人と生き物の双方を尊重しながら牛舎空間を設計することにより、これまで培われてきた乳牛と人の関係を改めて組み立てなおす建築となることを目指した。(新潟建築卒業設計展Session! 2021「ゆきどけ賞」および「学生賞」受賞/JIA 第30回 長野県学生卒業設計コンクール 大学の部 銀賞受賞/『近代建築6月号別冊 卒業制作2021』掲載)





